読み進めているうちに分子時計のことが気になったのですこし調べはじめるも、こちらもやたらと深くなりそうなので途中。
ミトコンドリアは電子伝達系によるATP産生を主な働きとする細胞内小器官。1つの細胞に1000個くらいはある。
ミトコンドリアには特有のDNAがあり、環状DNAとなっており、ひとつのミトコンドリア内に数コピー存在する。分子数は16569bp、ほとんどの領域がmRNAかtRNAおよびリボゾームRNAをコードしており、余白はほとんどない。またintronもない。無駄のほとんどないDNA。
ミトコンドリア特有のDNAコピー様式、および活性酸素のために変異の可能性が高い。変異はまず細胞内のどこかのミトコンドリアで起こり、細胞内が元々のmtDNAと変異したmtDNAが混在した状態(ヘテロプラスミー)になる。
細胞分裂するときに、新規の細胞が変異mtDNAから多量の複製mtDNAを受け取る可能性があり、その場合新規の細胞では変異mtDNAの割合は格段に高くなる。数回の細胞分裂後に細胞内に変異mtDNAのみが存在する状態になりうる(ホモプラスミー)。
この変異とホモプラスミー化が卵細胞で発生した場合、変異mtDNAを持つ卵細胞が出現する。卵細胞はヘテロプラスミーになっている可能性もあるが、その場合でも数世代を経ると元々のmtDNAか変異mtDNAかどちらかのホモプラスミーに収束する。
この課程をすべて通過した結果として、「mtDNAの変異率は核DNAの10倍くらい高い」という結果になっていると思われる。
現在の新生児のmtDNA変異率を統計的に求めることは比較的容易だが、それを過去に外挿することが適当かどうか、が問題となる。
たとえば、卵細胞におけるmtDNAの分裂回数、放射線の影響などはmtDNA変異率に影響を与えうると思う。そもそもの卵細胞におけるmtDNAの変異率が、過去も現在と同様であったか、は確かではない。
一方、卵細胞に起きたmtDNA変異のほとんどは自然選択的に淘汰される。tRNAや、mRNAから翻訳される蛋白質が変化した場合、多くは生存に著しく不利で、卵細胞あるいは胎生の時点で淘汰されていると思われる。出生してもミトコンドリア病を発症する可能性があり、若年死亡などで次世代にmtDNAをつたえるのが困難となる。
mRNAは変異しても翻訳される蛋白質が変化しない場合があるので、そのときは変異が生存に与える影響は少ない。またmtDNAの軽鎖・重鎖が複製開始される地点は両者ともRNAをコードしておらず、変異率が非常に高い部位になっている。この部分も変異が生存に与える影響は少ないだろう。
しかし、mtDNAの差によって、寒冷順応や高所適応に差があるという報告やアスリートに特定のmtDNAが多いという報告がある。つまり、健康に生活している現世人類に起きているmtDNAの変異においても、すでに能力に多様化があり、つまり、自然淘汰の影響をこうむっている可能性がある。
このような環境からの淘汰を現在の状況からだけで推測することは困難である。たとえば氷河期においては寒冷順応の高いmtDNAは生き残りやすく、寒冷順応に関わる遺伝子変異の変異率はあがっているはずである。
このような
・卵細胞におけるmtDNAの変異率が過去と現在で同一である保証はない
・環境によるmtDNAの淘汰は過去の環境において一定ではない
という理由で、現在のDNA変異率から過去の変異率を推定し、年代にあてはめるのは限界がある。
そのため、較正(キャリブレーション)が考案されており、ハプログループの分化時期が予測され、その時期が他の年代法によって比較的正確に計れている場合、それをもとに他の分子時計を修正する。
たとえばアメリカ大陸進出に伴う多様性の増加を指標にすることがあるが、そもそもハプログループの分化がどの歴史的事象に相当するのかの推測、およびその歴史的年代の測定、がともに揃う場合が少なく、キャリブレーションの限界となる。
このことから、分子時計のみをてがかりに過去の年代を推測するのは限界がある。
(どのくらい幅をもって考えればよいかもよくわからない。ただ最近の論文でも、出アフリカを50000-100000万年前、と書いていたり、それくらい幅のある話なのかもしれない)。
逆に何か正確な年代がひとつ出れば、それをもとにキャリブレーションを行うことで、かなり精度をあげることができるようにも思える。