2003年に10万年全史を書いたStephen Oppenheimerが、Philosophical Transactions of the Royal Societyに2012年に発表したreviewがありました。
(Out-of-Africa, the peopling of continents and islands: tracing uniparental gene trees across the map
Phil Trans R Soc B 367:770(2012) )
もともと10万年全史は、出アフリカの時期を85000年前と比較的古く推測し、トバ火山が噴火した74000年前にはアジアに現生人類は到達しており、現在のインド・東南アジアの民族はトバ火山の噴火の影響を受けた結果であると論じていました。原著の第2版ではやや改訂があったようなのですが、邦訳は第1版のみでした。
今回のreviewですが、分子時計については、Correcting for purifying selection: an improved human mitochondrial molecular clock (Am J Hum Genet 84:1(2009))に準拠しており、そのため出アフリカの年代が71600年前(57100-86600)とされています。これは出アフリカの年代を古くにおいてきたOppenheimerにとっては不利なdataですが、ともかくも一貫してこのdataにそって記述されています。
出アフリカが1回であったこど、出アフリカが紅海の南端を通るルートであったことは以前と変わらず強調されており、いくつかの新しい証拠とともに論述されているようです。
全人類が現世人類に置き換わったことも論述されております。しかし、YchrやmtDNAには証拠が残っていないものの、ネアンデルタールのDNAが数%(7%未満)残存しているとしています。
出アフリカの時期については、とくに分子時計について論評がありますが、結局は信頼できる考古学的証拠(熱ルミネッセンス法など)がないと確かなことはいえない、というスタンスです。ただ、以前より主張しているトパ噴火前の南~東南アジア到達については、まだ信頼できる考古学的証拠がないことを認めているようです。
海岸採集ルート、およびニューギニアとオーストラリアへの最早期の植民についても言及していますが、ニューギニア、オーストラリアにおいても、現状では彼の主張を裏付けるような古い考古学的年代は出ていないようです。
Oppenheimerは10万年全史における主張を基本的には変更していないようです、しかしトバ噴火前の南~東南アジア到達、という主張を裏付ける証拠はまだ出ていないと思われます。