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fairyism備忘録

現状のところ、人類史および日本への拡散について管理者が学習してゆくブログです。

HLAで紐解く二重構造モデル

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HLAで紐解く二重構造モデル

Detection of Ancestry Informative HLA Alleles Confirms the Admixed Origins of Japanese Population
PLOS ONE 8:e60793(2013)

 HLAは多様性が高く、また免疫疾患や移植治療の関係で豊富な研究の蓄積があったため、人類史の検討に以前から利用されていました。徳永勝士先生などはHLAの対立遺伝子頻度をもとに分析を行い、B54-DR4、B46-DR9は南中国などの南方から、B52-DR2は北中国や南シベリアから、B44-DR13は朝鮮半島からそれぞれ日本に入ったことを示し、いわゆる二重構造モデルに近い成立過程を提示しています。(参照→白血球の型から先祖集団の故郷を探る(日本人の起源))
 近年の、より精密に検討された論文を読んでみます。というか、以前読もうとしたんですが、HLAの基礎知識が足りずに後回しにしていたものです。(前回やろうとしたピーター・パーハム先生の論文はいまだに読みかけです……)

 筆者等はJapan Pharmacogenomics Data Science Consortiumによって集められた3000人の健康な日本人のデータから2005例を対象にし、HLA -A -B -C -DRB1 -DPB1の5-locus HLA genotypeについて解析をしています。これらは、北海道・東北・関東甲信・北陸・東海・近畿・中国・四国・九州・沖縄の10地方に分けて分析されています。
 まず地方ごとのHLA頻度についてFST解析を行い、沖縄が他の全ての地方と明白に差があることを示しています。沖縄と北陸は比較的差が大きく、沖縄と四国は比較的小さいようです。他に、北海道-北陸、北海道-東海、北陸-東海、北陸-四国、北陸-九州、東海-中国、東海-九州、中国-九州のあいだに有意差がありますが、沖縄と比べると大きな差とは言えません。
 次に全ての地方を対象にPCA解析を行い、沖縄がひとつ大きくはずれることを示しています。沖縄は1st componentの軸で大きくはずれており、沖縄と他の地方の差をもたらしているものが1st componentであると推測されます。一方他の地方は2nd componentの軸にそってほぼ一列に並んでおり、沖縄以外の地方の間に差をもたらしているものは、沖縄との差とは別の要因であることが推測されます。

 ここで、筆者等は日本人に見られるHLAのアリルを対象にPCA解析を行い、集団ごとの差の原因になっているアリルを検出しています。集団間で差のあるアリルはPCAでは標準からはずれて周辺にあり、その位置によってCL1~CL4(CL=cluster)に分類されています。

 CL1~CL4について地方ごとの頻度を確認してみると、CL1は沖縄のみで高いもの、CL2は沖縄と四国で高いもの、CL3は沖縄で低いもの、CL4は沖縄で低く東海で高いもの、であることがわかりました。

 HLAの遺伝子は、第6染色体短腕の短い領域に固まって存在しており、組み替えによって分離することが少ないため、基本的には同じ組み合わせで遺伝します。つまり、親の遺伝子がA*24:02-C*12:02-B*52:01-DRB1*15:02-DPB1*09:01であったとすれば、それをひきついだ子供の遺伝子も基本的には同じ組み合わせになります(HLAの遺伝子は基本的にヘテロになっており、一人が2種類の組み合わせを持っています。どちらが子供にいくかは原則五分五分です)。ただ、組み替えが全くないわけではないので、長い年月が経てばこれらのアリルはバラバラになっていくことが予想されます。(ただし、生存に有利なアリルの組み合わせがあるために、自然選択を考慮すると話が複雑になります)。
 アリルの組み合わせが高い頻度で保存されている場合、連鎖不均衡が強い、といいます。筆者等はCL1~CL4のそれぞれについて、アリル間の連鎖不均衡を図示しています。赤は連鎖不均衡が強く、茶色は連鎖不均衡がなく、青は連鎖不均衡がマイナス(むしろ分離していることの方が多い)ということです。図の右上側が日本本土、左下側が沖縄です。

 一見して、CL3とCL4は真っ赤、つまり連鎖不均衡が高く、これらのアリルは一緒になっていることが多い、とわかります。
 実際、CL3に含まれるアリルを全て持つ組み合わせ、A*24:02-C*12:02-B*52:01-DRB1*15:02-DPB1*09:01は日本人の6.38%を占めるもっとも多いハプロタイプです。
 逆に、CL1とCL2はほとんど茶色、つまり連鎖不均衡がなく、これらのアリルはバラバラに伝えられていると考えられます。HLA-CとHLA-Bについては連鎖不均衡がありますが、これはHLA-CとBの遺伝子はすぐ近傍にあるため、とりわけ連鎖しやすい(一緒に遺伝しやすい)からです。
 とすると、沖縄に多いCL1とCL2は連鎖不均衡が低く、どうも伝えられてから長い年月が経ったため連鎖が失われたのではないか、と推定されます。一方沖縄に少ないCL3とCL4は連鎖不均衡が高く、これは伝えられてからまだ年月が浅く、そのため連鎖が強く保持されているのではないか、と推定されます。

 日本人は、旧石器時代からヒトが移住しいわゆる縄文人となり、2000年前頃に朝鮮半島から移住したヒトがいわゆる弥生人となり、両者があわさって成立した、という説(二重構造モデル)が以前より支持されています。ただ縄文人の由来については諸説あるところです。
 二重構造モデルに照らせば、沖縄に多いCL1とCL2は由来が古く縄文人にルーツを持っており、本土に多いCL3とCL4は弥生人つまり朝鮮半島にルーツがあるのではないかと推測されます。
 日本人に多いHLAハプロタイプの上位10個を見てみると、第1位のH1(H=haplotype)はCL3に含まれるアリルそのものです。2位のH2はCL4そのものです。CL2のアリルはH4とH9に出てきますがH5やH7にも見られます。CL1のアリルは頻度の高いハプロタイプを構成しません。H1およびH2はアジア全体では韓国と日本にだけ多く見られるものであり、H1とH2が近年に朝鮮半島から伝えられたものであることは間違いないと考えられます。

 CL2のアリルを含むH4とH9は、B*54:01-DRB1*04:05を持ちますが、これは南韓国、フィリピンのIvatan、台湾のSirayaに見られます。H5とH7に共通するA*02:07-C*01:02-B*46:01-DRB1*08:03は雲南のNuとJinuoに見られ、B*46:01-DRB1*08:03は南韓国、台湾のMinnan、Pazehに見られます。このように沖縄に多いCL2は、東アジアの南方と関連づけられることがわかります。
 CL1は頻度の高いハプロタイプを構成しません。CL1に含まれるアリルのうち、アイヌではA*02:06(20.0%)とB*35:01(11.0%)が多く、他は少ないことがわかりました。実際、沖縄とアイヌに共通してA*02:06-B*35:01は多く、またこれはアラスカのYupik族でも2.9%見られます。

 日本と韓国の違いを検索するために、韓国も含めてPCAを見たところ、1st componentで沖縄と本土の違いが現れ、2nd componentで本土と韓国に違いが現れました。同様にHLAのアリル頻度を対象にPCA解析を行い、集団ごとの差の原因になっているアリルを検出したところ、CL5という新たな一群が検出され、これが日本と韓国の違いの原因になっていると推測されました。CL5について連鎖不均衡を調べると、C*03:04とB*40:02に強い連鎖不均衡があることがわかりました。


 ハプロタイプC*03:04-B*40:02を見ると、本土(6.30%)と沖縄(8.72%)で高頻度ですが、韓国にはほぼ存在しません。そして、これはAleutやアラスカのYupik、北米・中米のAmerindians、台湾のMinnan、Tao,Ami,Paiwan,Sirayaという台湾先住民、フィリピン先住民であるIvatanに存在します。Tao以外の台湾人はC*03:04とB*40:02それぞれの頻度は高いものの、ハプロタイプC*03:04-B*40:02は比較的少ないです。Taoは台湾南東の蘭嶼島に居住し遺伝的に孤立しており、Ivatanと結びつきが強いことが知られています。また、Taoは台湾先住民で唯一A24-Cw10-B61というハプロタイプが報告されており、これはOrochon,Mongolian,Inuit,Yakut,Buryatsという北方の民族に普遍的に見られるA*24:02-C*03:04-B*40:02と同等のものです。
 A*24:02-C*03:04-B*40:02は本土および沖縄に見られ、またAleut,Eskimo,Amerindianにも見られます。このことは縄文以前の日本人が北アジアおよびベーリング陸橋を経由してアメリカへ渡った人々と同じルーツを持っていることを示しています。

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 このような結果をあえて地図にプロットしてみます。(ここまでの図は論文からの引用、地図はブログ記事用に作成しました)

CL3およびCL4に属するアリルは、強い連鎖不均衡を持ち、これは朝鮮半島から近年に伝えられた、いわば弥生のハプロタイプと言えます。


CL2に属するアリルは、雲南、台湾、琉球、朝鮮に分布し、いわゆる江南ルートを思わせるハプロタイプです。

 
CL1に属するアリルから推測されるA*02:06-B*35:01というハプロタイプは、琉球・アイヌ・Yupikに分布します。琉球アイヌ同祖論を補強し、また縄文人とベリンギアを渡ってアメリカへ植民した人々の関連を示唆するものかもしれません。


CL5に属するアリルは、台湾やフィリピン、琉球・本土、さらにはシベリアからベリンギアを通ってアメリカまで分布します。これはいわゆる海岸採集民ルートを彷彿とさせます。CL5が韓国で見られない理由が、ルートに入っていないからなのか、後世の修飾によるものかはあまりわかりません。

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 HLAを詳細に見た結果は、mtDNAやYchr、全DNAを対象とした研究によって示されてきた説をおおむね支持するようです。
 HLAは常染色体上では極めて多様性の高い部分であり、人類史解析にまだまだ有用なツールでありそうです。なんといっても、HLAはその機能を非常に精細に研究されてきた分子です。全DNAを対象とした研究は、基本的に機能があまりよくわかっていない分子を多数含みます。HLAによる研究は、自然選択など環境との関連が大きく難しさがあると思いますが、逆に環境との関わりで人類がどう発展してきたかを示すことのできる、これからも新事実が多数出てくる分野のように思います。
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