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fairyism備忘録

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日本人のHLAは8割以上が旧人由来なのか? (本編)

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日本人のHLAは8割以上が旧人由来なのか? (本編)

The Shaping of Modern Human Immute Systems by Multiregional Admixture with Archaic Humans
Science 334:89(2011)

 HLAのアリルが交配によって旧人から現生人類に伝えられ、それによって現生人類は病原菌に適応して生き延びたのだ、という説です。A Denisovan Legacy in the Immune System? というScienceのニュースでこの論文が紹介されており、それによると著者のピーター・パーハム先生は16年もHLA-B*73:01というアリルの謎を追究してきたのだそうです。
 ネアンデルタール、デニソワ両方の常染色体DNA配列が解析されたことで、謎に光明が差し、HLA-B*73:01が旧人から伝えられたものであるという確信にいたったようです。またネアンデルタール、デニソワのDNA解析から判明した彼らのHLAアリルが、現生人類に伝わったことも調べています。さらには、他に旧人由来と考え得るアリルを推定し、それが東南アジアやニューギニア、日本で広く見られることを示しています。
 つまり、この論文は、1)HLA-B*73:01の謎、2)旧人にみつかったHLAアリル、3)旧人由来と推定されるHLAアリル、という3部作のようになっています。それぞれ見ていきます。

1)HLA-B*73:01の謎
 ピーター・パーハム先生がずっと調べてきたアリルです。このアリルは非常に古い由来を持ち、チンパンジーにもB*73にあたるPatr-B*17:01というアリルがあります。
 MHC-B(HLA-B)の遺伝子領域およびその前後を、14区域にわけてそれぞれの系統関係を調べています。するとMHC-B*73の遺伝子領域の前後では、その配列がヒトのMHC-B(HLA-B)のアリルと近縁関係にあるのに、MHC-B*73の遺伝子領域そのものでは、むしろゴリラやチンパンジーのアリルと近縁関係が強いことがわかりました。
 組み替えによってHLA-B*73:01の配列の一部をもらった他のHLA-Bアリルがありますが、それらの配列を比較してHLA-B*73:01が他の配列の元になったそもそもの配列であることを確認しています。HLA-B*73:01の特徴として、M(-21)(21番目がメチオニン), C1 epitope(α1ドメインの76番目バリンと80番目アスパラギンで構成)という配列がありますが、これはもともとMHC-BIIという配列にあったものです。
 MHC(HLA)は自分の配列をコピーして二重遺伝子となり、それぞれが別々に変異をすることで、機能の異なる多数のMHCを作ってきた、という進化史があります。そのため、MHC領域にはMHC-A,B,Cなどの多様なMHC分子だけでなく、非古典的MHCと呼ばれる自然免疫系のMHCや、さらにはコピーされたはいいがタンパクの発現を失ってしまった偽遺伝子などがたくさん固まって存在しています。MHC-BIIは1630万年前にMHC-Bからコピーされたと推測される配列で、現在は遺伝子機能を消失しています。
 著者らは、ゴリラとヒトが分岐する前にinterlocus recombinationにより、MHC-BIIの配列がMHC-Bの配列として入り込み(MHCの分子進化史的にはよくみられる現象のようです)、その後、組み替えや変異の影響を受けて、ヒトのHLA-B*73、チンパンジーのPatr-B*17、ゴリラのGogo-B*06になったと推測しています。
 HLA-B*73はこのように由来の古いアリルであるのに、現生人類において多様性に乏しく均一です(HLA-B*73:02が1名のみ報告されている)。このことはHLA-B*73:01が近年になって旧人から伝えられたという可能性を考えさせます。現在のHLA-B*73:01の分布を見ると西アジアに中心があり、他の地域ではわずかです。このことから、現生人類と旧人の交配は西アジアで起きたと推測されます。

(図は論文より引用)

 また、HLA-B*73:01とHLA-C*15:05の連鎖不均衡からも交配があったと推測されます。世界的に見るとHLA-B*73を持つヒトの98%がHLA-C*15:05を持っています。アフリカでは100%です。しかし西アジアでは90%程度です。これは西アジアでHLA-B*73:01-C*15:05がまず拡大し、それから各地に分散したと考えるのが理にかなっています(西アジアでもっとも由来が古いため、組み替えによってB*73:01とC*15:05が一部分離した)。コイサン族とピグミー族にはHLA-B*73が存在せず、このことは出アフリカ時代にはアフリカにB*73はなく、現在のアフリカのB*73は後代の流入であるということを示唆します。
 これを、コンピューターシミュレーションによって検討しています。現在の西アジア~アフリカのHLA-B*73とC*15:05の頻度を元に、coalescence simulationを行っています。(REJECTORというソフトを使用し、組み替え頻度を0.44cM/Mbとし、出アフリカを3375世代前(67500年前)、西アジアからアフリカへの移住を当時のアフリカ人口の10%および500世代前(10000年前)とし、C*15:05の出現を3250世代前(65000年前)の西アジアにおいています。西アジア交配説ではB*73は50000年前の西アジアに由来、アフリカ由来説ではB*73は105000年前のアフリカにあったと設定しています)。シミュレーションの結果、西アジア交配説がアフリカ由来説の200倍以上も可能性が高いことが示されています。

2)旧人にみつかったHLAアリル
 ネアンデルタールおよびデニソワ人の常染色体解読が進んでいますが、著者らは解読された部分から彼らのHLAアリルを推定しています。デニソワ人のHLAアリルは、A*02とA*11、B*15とB*35、C*12:02とC*15と推測されました。このうち、B*15に関しては解読された範囲でも3塩基の違いがあり、現代では見られないタイプであると考えられました。

(図は論文より引用)

 デニソワ人に見られたHLA-AおよびHLA-Cのアリルである、A*02とA*11、C*12:02とC*15について、ハプロタイプとしては、A*11-C*12:02とA*02-C*15、またはA*02-C*12:02とA*11-C*15、という組み合わせが考えられますが、これらハプロタイプの全てがアジアとオセアニアに分布し、アフリカとヨーロッパではまれです。旧人の遺伝子解読から、旧人と現生人類が長いハプロタイプをシェアする例は非常に少ないことがわかっており、HLAハプロタイプについても旧人と現生人類が分岐して以来ずっと保存されてきたと考えるよりは、近年になってから交配で旧人から新人に伝えられたと考える方がもっともらしいと思われます。これらのハプロタイプはメラネシアに多くパプアニューギニアの20%に達し、これはデニソワ人の遺伝子がメラネシアに伝えられたという既報と一致します。世界的に見ると、デニソワ人のハプロタイプはアジア人とAmerindiansに伝わっていると考えられます。
 A*02は世界的に存在するのに、A*11はほとんどアジアにのみ見られます。HLA-A-Cのハプロタイプはデニソワ人とアジア人、とくにニューギニア人に共通しており(A*11:01-C*12:02,A*11:02-C*12:02,A*11:01-C*15:02)、おそらくデニソワ人から伝えられたのがA*11:01-C*12とA*11:01-C*15だけであったことが推測されます。A*11:01はどちらにも共通して出てきますがお互いの間に変異は認められず、A*11:01-C*12とA*11:01-C*15が以前からそれぞれ独立して保存されてきたと考えるより、A*11の全てがデニソワ人に由来していると考える方が理にかなっています。
 デニソワ人が持つHLA-C*15とC*12:02は現在アジアで良くみられるアリルです。分子学的にはC*15は420万年前、C*12:02は243万年前に分岐したと推測され、出アフリカのはるか以前に誕生していたアリルですが、その多様性は現在アジアの方がアフリカより高くなっています。これも、C*15とC*12:02が西アジアでデニソワ人から現生人類に伝えられ、その後一部がアフリカに戻ったと考えればつじつまが合います。このC*15とC*12:02はB*73と強い連鎖不均衡があり、今回の報告でデニソワ人からB*73が認められなかったとはいえ、B*73もデニソワ人から伝えられたという傍証と考えられます。

 Vindijaのネアンデルタール人から取られた常染色体の解析では、当地のネアンデルタール人が多様性を相当失っていたことが報告されています。それを反映して3体のネアンデルタール人はいずれも同じHLA-A-C-Bハプロタイプであったと考えられます。おそらくは、A*02[not:05]とA*26/*66、B*07:02/03/06とB*51:01/08、C*07:02とC*16:02という組み合わせです。

(図は論文より引用)

 HLA-A-Cハプロタイプは4通り設定できますが、いずれも現在ユーラシアに中心があり、アフリカで少なくなっています。すなわち、これらもユーラシアにおいてネアンデルタール人から現生人類に伝えられたものであることが示唆されます。
 B*07:02/03/06、B*51:01/08、C*07:02、C*16:02はいずれもユーラシアに分布の中心があり、ユーラシアの方が多様性が高くなっています。これらもネアンデルタール人から交配によって伝えられた可能性が高いと考えられますが、その分布の中心はユーラシアの各所にあり、アジアに中心があったデニソワ人由来のアリルとは対照的で、ネアンデルタール人との交配が各所で行われたことを示唆します。

3)旧人由来と推定されるHLAアリル
 連鎖不均衡は世代を重ねるほど組み替えによって消失していくことが予想され、遺伝子の由来が古いほど連鎖不均衡が低いと考えられます。アフリカ、ヨーロッパ、中国、日本でそれぞれHLA-Iの遺伝子領域における組み替えの頻度を調べたところ、アフリカがもっとも少なく、ヨーロッパは多く、日本と中国はさらに多いことがわかりました。組み替え頻度が高いとはすなわち連鎖不均衡が低くなるということであり、遺伝子の由来の古さを推測させます。著者等は、これをアフリカ外で旧人からもたらされたアリルの影響であると考えています。
 HLA領域には多数のSNPがあり、特定のHLAアリルと関連づけられるSNPも多数同定できます(A high resolution HLA and SNP haplotype map for disease association studies in the extended human MHC : Nat Genet 38:1166(2006))。このSNPの位置はHLAアリルと遠く離れていることもあり、その場合SNPがHLAアリルと連鎖していると考えられます。遠く離れたSNPと連鎖を保持しているHLAアリルは由来が若いものと推定されます。一方、近傍のSNPとしか連鎖していないアリルは古いと推定されます(点突然変異の遺伝と同様の現象であると思われます。最初は点突然変異の周囲の配列も同時に伝えられていきますが、世代を重ねるにつれて組み替えの影響で同時に伝えられている配列の長さがだんだん短くなっていきます)。
 このような近傍のSNPとだけ連鎖しているHLAアリルを抽出すると、HLA-A*02:01、02:06、26:01など旧人から検出されたアリルを多数含むことがわかりました。そして同様に近傍のSNPとしか連鎖していないアリルで旧人に検出されていないものとして、HLA-A*24:02、31:01を認めました。

(図はNat Genet 38:1166(2006)より引用し、改変)

 筆者等は、これらHLA-A*24:02、31:01も旧人との交配によって得られたアリルではないかと推定しています。
 さて、もしこの推定が正しいのであれば、なんといってもA*24:02は日本でもっとも多いアリルです。他の旧人由来とされるアリルも全て5%以上という重要なアリルで日本における頻度の上位1~6位を占めます。HLA研究所ホームページのデータによると、
A*02:01 11.532%
A*02:06 9.247%
A*11:01 9.15%
A*24:02 35.936%
A*26:01 7.528%
A*31:01 8.685%
 なので、これだけで合計82.078%に達します。これがこの論文でいうところの、日本人のHLA(-A)は80%以上が旧人由来、という主張です。

 しかし、既報では現生人類における旧人由来の遺伝子は1~6%とされているのに、HLAに関してはこれほどの高頻度となることはありうるのでしょうか。あるとすれば相当強力な自然選択が働いているはずです。
 著者等は免疫に関わる分子には自然選択が強く現れると考えており、他の例としてNK細胞の抗原認識分子であるKIRについて述べています(NK細胞はKIRによってHLAを認識し、HLAを出現していない細胞を排除する働きをしています。また妊娠時に胎盤を作る働きにも関与しているようです。著者らは長年、HLAとKIRの分子進化的な研究を続けています)。デニソワ人のKIRはKIR3DS1*013と推測されますが、これもデニソワ人由来のHLAと同様にアフリカで少なくアフリカ外で多いパターンとなっています。また、旧人由来と推測されるアリルは特定のKIRと強く反応するものがあり、KIRを介してNK細胞を良くコントロールできる可能性があり、そのことが免疫にとって有利になったとも考えられます。

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 以上。やはり難解であり、特に(3)については論拠が見えず、大きな誤解をしているかもしれません。
 A*24:02という日本最大のHLA-Aアリルが本当にデニソワ人由来なのか。興味深い問題です。

 (2)については慎重に議論が進められており、
・旧人に検出され、現生人類にも認められる
・アリルとしての由来は古い
・多様性は低く、アリルの古さの割に現生人類における起源は若い
 ことから、旧人からアリルを伝えられた可能性を考え、
・アフリカにはほとんど見られず、ユーラシア中心に分布する
・多様性もユーラシアの方が高い
・連鎖不均衡はユーラシアの方が低く、アリルの起源はユーラシアの方がアフリカより古いと推測される
 ことから、交配のあった地域はユーラシアであった。としています。

 (3)は、この中で、「アリルとしての由来は古い」という部分を、連鎖するSNPの範囲が狭い、という不確かな論拠のみで主張し、やや牽強付会に論理を進めているように思えます(というか、これがアリルの古さを示唆するものとして良いのかどうかもよくわかりません)。連鎖するSNPの範囲が狭いことと旧人由来のアリルに関連があることを示していますが、関連は強固なものとは言えず、また関連する理由についての説明はありません。連鎖するSNPの範囲が狭いものをrapid LD(linkage disequilibrium) decay と表現してる所もありますが、なぜにrapidなのか不明です。
 アフリカよりヨーロッパ、アジアで組み替え頻度が高いことが述べられていますが、アフリカのeffective population sizeを7500、非アフリカのeffective population sizeを3100とおいており、この部分はまだ議論の多いところではないかと思います。
 また、旧人から交配によってアリルをもらったのか、あるいは現生人類が強いbottleneckを受けてアリルがいったん単一になってしまったのか、この両者を区別するのは難しいと思うのですが論文内で十分な説明がないように思います。
 旧人にみつかったアリルで、現生人類にもあるものは、旧人から伝えられたかもしれず、特にA*11:01、C*12:02、C*15:02あたりは可能性が高そうです。一方A*02などは不確かです。旧人からみつかったアリルでも、それが全て交配によって現生人類に伝えられたとは言い切れません。それなのに、(3)では旧人にみつかったアリルを全てarchaic alleleとして議論を進めています。

 おそらく、旧人にみつかったアリルの一部は現生人類に伝えられ、ピーター・パーハム先生が追い続けていたB*73:01も旧人由来のアリルなのでしょう。しかし、(3)の議論は問題が多く、A*24:02が旧人から交配から伝えられたものかどうかは、何とも言えません。
 ただ、日本においてA*24:02-C*12:02は強い連鎖不均衡があり、C*12:02はまさしくデニソワ人のアリルです。またA*24:02もまた現在のアフリカでは見られないアリルです。
 まとめると、人類の移動誌で徳永先生が述べた通り、「本当はどっちだったのか、もっと多くの人類集団から細かくデータが出てこないと、はっきり結論はできないけれども、ある程度そういうことはあったかなという印象」ということになるかと思います。
 徳永先生は「病気、特に感染症についても考えたほうがいい」と述べています。パーハム先生は論文中で、EBウイルスとHLA-A*11の関連を指摘しています。このようなウイルスは現在はごくまれに致命的になりますが、以前は猛威をふるって自然選択に深く関与したりしていたのでしょうか。

 現状では、現生人類が旧人から交配によってHLAアリルをもらったという事象はあった。一部は自然選択において有利に働いた。しかしA*24:02などがそうであるという証拠は乏しく、日本人のHLA-Aの8割以上が旧人由来と言うには証拠が不十分、という感じだと思います。
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