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fairyism備忘録

現状のところ、人類史および日本への拡散について管理者が学習してゆくブログです。

日本人のHLAは8割以上が旧人由来なのか? (HLAの解説編)

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日本人のHLAは8割以上が旧人由来なのか? (HLAの解説編)

The Shaping of Modern Human Immune Systems by Multiregional Admixture with Archaic Humans
Science 334:89(2011)

 人類の移動誌、にて徳永勝士先生が言及していた論文です。ユーラシアに進出した現生人類は、現地のネアンデルタールあるいはデニソワ人から免疫に関わるHLA遺伝子を交配によって受け取り、現地の感染症に対する抵抗力を身につけて生き延びたのだ、という説です。特に日本人やパプアニューギニア人は、現存するHLA-A遺伝子の8割以上を旧人から受け取っているとしています。ちょっとすぐには信じられないような話でありますがどうでしょうか。
 徳永先生は、「HLAというのは非常に複雑だから、専門家がみないとわからんのですよ」と言っています。そのHLAをじっくり研究してきたピーター・パーハム先生の論文であり、しかもScienceという紙幅の限られたところへの発表であるので、濃密で難解な論文であります。困難を承知で読んでみます。論文に入る前にHLAについて解説を試みます。(HLAは免疫関連ではMHCと呼ばれることも多いですが、HLA = ヒトのMHC、です)。

 記述は主に、免疫学最新イラストレイテッド第2版(羊土社・2009年)を参考にしました。最新の情報を知らないための間違いもいろいろあるかもしれません。
 HLAの概略については、強直性脊椎炎におけるHLA-B27の役割、というサイトがとてもわかりやすく、こちらを読んでもらった方が良いような気もします。ここでの解説はかなり煩雑なものになってしまいました。
 公益財団法人HLA研究所、のサイトもわかりやすいです。
 株式会社ベリタスのサイト内の、KAMON研究会28のpdf資料、徳永勝士先生のHLAの遺伝学、が非常に参考になりました。

 HLAとは、ひとことで言うなら、ヒトの獲得免疫の鍵になるタンパク質です。
1)獲得免疫を発動させるための抗原の提示 
2)自己と非自己の識別 
3)T細胞の選別、
という仕事に関与しています。HLAは細胞の表面に出てくるタンパク質ですが、1)抗原の提示、については、T細胞のTCR(T-cell Receptor)というタンパク質と反応します。(T細胞は白血球のなかのリンパ球の一種で、獲得免疫の調節をしています)。また、2)自己と非自己の識別、というところでは、NK細胞のKIR(Killer cell Immunoglobulin-like Receptor)と反応します。(NK細胞はリンパ球の一種で、HLAを発現していない細胞を殺す働きをしています)。3)については後述しますが、獲得免疫の調節をするT細胞のレパートリーはHLAに強く影響を受けます。

 HLAは、HLA class-Iと、class-IIに大別されます。HLA-Iはすべての細胞に発現しており、HLA-IIはプロフェッショナル抗原提示細胞とよばれる特別な細胞(樹状細胞、マクロファージ、B細胞)にだけ発現しています。HLA class-I(正確にはclass-Ia)には、A B Cの3種類があり、HLA class-IIにはDR DQ DPの3種類があります。これらは非常に多様性があり、たとえば人類全体では、HLA-Aは600種、HLA-Bは1000種、HLA-Cは300種以上報告されています。(HLA-Ibという、多様性に乏しく、自然免疫に関与するものもあるのですが、ここでは割愛します)。このそれぞれの遺伝子は、HLA-A*24:02、などと記述します。これはHLA-Aの血清学的に24番のDNA多形の02番、という意味です。
 多様性が高いため、通常、父由来の遺伝子と母由来の遺伝子はヘテロになっています。これは両方とも発現するので、一個人の中でも、HLA-IはA B Cの3種、HLA-IIはDR DQ DPの3種、それぞれ父由来と母由来のものが発現しており、多彩なHLAがあることになります。

 身体に病原体が侵入した場合、まず自然免疫系が働きます。これは太古から動物に備わっている免疫系であり、病原体に特有の物質に反応して警報をならし(例えば、炎症性サイトカインという物質を出し)、自然免疫系の白血球(好中球・単球)がたくさん集まってきて病原体を捕食しはじめます。
 捕食された病原体のタンパク質は細胞の中で分解されてペプチドになり、HLAはそのペプチドと結合して細胞の表面に出てきます。これが抗原の提示、です。このHLA + 抗原ペプチド、と強く反応するT細胞は多量に増殖し、感染の起こっている場所で炎症性サイトカインを出して白血球を集めたり、B細胞というリンパ球を刺激して抗体を作らせたり、また感染している細胞を認識して破壊したりします。このように侵入してきた病原体に特異的で強力な攻撃が発動します。すなわちこれが獲得免疫です。病原体が排除されても一部のT細胞は長生きし、次に同じ病原体が入ってきたときに素早く反応できるように備えます。

 さて、このT細胞ですが、HLA(+ペプチド)と反応するためのTCRというタンパクを表面に発現しています。このTCRは後天的に遺伝子の再構成を行うことによって一人の個人の中で無数ともいえる多様性をもちます。(参照→http://www.riken.jp/rcai.lymdev/common_contents_09.html)。T細胞は骨髄で生産されるとまず胸腺という器官に送られ、そこで上皮細胞や樹状細胞という細胞のHLAと反応します。このHLAには自分自身のタンパク質から出てきたペプチドが提示されており、これと強く反応するT細胞は自分自身を障害する可能性があるので、排除されます。また、HLAとまるで反応しないT細胞も役立たずとして排除されます。こうして自分のHLAとほどよく反応するT細胞だけが、体内に出て行くのです。HLA-IIと反応するものはCD4+T細胞(活性化すればヘルパーT細胞)、HLA-Iと反応するものはCD8+T細胞(活性化すればキラーT細胞)になります。
 このような仕組みのため、体内に出てくるT細胞のレパートリー(レパトアといいます)は、各個人のHLAに大きく影響を受けます。
 体内に出て行ったT細胞は、各組織が平和なときは、自分由来のタンパク質や無害な腸内細菌、食べた腸管内容物を提示するHLAなどから刺激を受けることで、免疫を抑制させるタイプのT細胞に変化し、過剰に免疫が起こらないようにします。このような仕組みは免疫寛容といいますが、T細胞とHLAの反応は免疫寛容にも深く関係していることになります。
 いざ、病原体が侵入してきたとき、自然免疫系の細胞が多数集まり、病原体を貪食して分解し、とくにマクロファージや樹状細胞は、HLA-IIを介して病原体のペプチドをT細胞に提示します。多種多様なT細胞の中で、そのペプチドに強力に反応するT細胞だけが免疫を活性化させるタイプ(この場合、HLA-IIに反応するのでヘルパーT細胞)に変化して増殖します。B細胞は抗体を産生して病原体を直接攻撃するリンパ球ですが、HLA-IIを介して病原体のペプチドをヘルパーT細胞に提示し、強い反応を得ることで抗体産生を開始します。(B細胞はBCRという、一個人の中で非常に高い多様性を持つ、TCRそっくりのタンパク質を発現しています。ただ、BCRはHLAを介さず直接抗原ペプチドと反応します。B細胞はT細胞のように自分自身と反応するものは排除されるようになっていますが、その過程にHLAは関与しません。B細胞はT細胞を介して間接的にHLAによるコントロールを受けていると言えます。B細胞もいざ感染症のときには、病原体と強く反応するものだけが選択的に増殖するシステムをもっています。ちなみにBCRはB細胞にくっついているときは抗原を認識するタンパク質として働き、B細胞から離れると、抗原にくっついて攻撃する抗体として働きます)。感染が終息しても、B細胞やT細胞の一部は生き残り、次回おんなじ病原体が侵入したときは素早く反応してこれを排除します。
 ウイルスなどの感染をうけた細胞はウイルスの攻撃を受けてネクローシスという死滅に陥りますが、ネクローシスで出てきた物質もマクロファージや樹状細胞に貪食され、これらはHLA-Iに乗せて提示されることがあります。これに強力に反応するT細胞(この場合、HLA-Iに反応するのでキラーT細胞)は増殖して患部に向かいます。そこでは、感染をうけた細胞が危険信号とともに、侵入した病原体のペプチドを自分のHLA-Iに乗せて提示しています。これにキラーT細胞が反応すると感染細胞をアポトーシスという死に導きます。感染細胞はそうするとただやられるだけでなく、ウイルスを道連れにすることができるのです。

 獲得免疫はHLAを介して発動するので、ウイルスの中には細胞にHLAを出させないようにして免疫を逃れようとするものがあります。また癌細胞もHLAを出さないようにして免疫から逃れようとすることがあります。
 このようなHLAを出さない細胞を見つけて、殺しにいくのがNK細胞です。NK細胞はHLAを認識するために、KIRというタンパク質を表面に発現しています。KIRにはHLA-Cを認識するKIR2DL1~DL3と、特定のHLA-Bおよび特定のHLA-Aを認識するKIR3DL1~DL2があります(正確にはKIR2DL1~DL5、KIR3DL1~DL3があるようです、またKIR2DS1~DS5、KIR3DS1というものもあり、これらは抑制的ではなく活性的に働くようです)。
 これらのKIRは、一個人が全てを発現しているわけではなく、例えば日本人ならKIR2DL1とKIR2DL3はほぼ100%持っていますが、KIR2DL2は15%くらいか持っていないということがあります。KIRは基本的に自分のHLAに対応しているので、HLAからKIRのレパートリーを予測することができます。

 長々と書いてきましたが、獲得免疫系はともかくHLAがペフチドを提示できないと始まらない、わけです。もし自分のHLAで対応できない病原体に感染を受けたら、免疫が働かず死ぬしかありません。実際は病原体から得られるペプチドも多数あり、自分のHLAも複数の種類があるわけですから、全く対応できないということはまずないのですが、それでもHLAの種類により得手不得手はでてきます。
 また、HLAの種類によっては特定の自己免疫疾患(免疫が自分自身を攻撃する病気、たとえば関節リウマチ、強直性脊椎炎など)にかかりやすくなるものがあります。特定のHLAが病原体や腸内細菌と反応することがこのような病気の引き金になると考えられています。

 つまり、HLAは環境、特に病原体や腸内細菌、さらには食べているものと作用するために多様性をもっており、これらの環境との間にミスマッチがあると淘汰される可能性があるわけです。
 HLAのバリエーションは、土地によって大きな差があるのですが、これが遺伝子浮動や創始者効果の影響なのか、土地の環境の影響なのか、判断は相当難しいものと思います。

 HLAは、一個人の中でも多彩なHLAがあり、集団としては極めて多様性が高くなっています。感染症が流行したとしても、集団の中にその感染症に対応できるHLAを持つヒトがある程度いれば、集団としては全滅せずにすみます。HLAは多様性を高める方向に進化してきた非常に特殊なタンパク質です。ふつうのタンパク質に変異が起きた場合、ほとんどが生体に不利となり自然淘汰ですぐに排除されるのですが、HLAに起きた変異は多くが保存されるため、特別に変異の早いタンパク質と言えます。
 一方、ヒトにとって大切なHLAはいつまでも保存されます。現存するHLAはひとつひとつの由来は非常に古いとされます。
 HLA A,B,C、およびDR,DQ,DPは相補的に働いており、そのために(おそらく)組み合わせの相性があります(B-C DR-DQについては連鎖不均衡を示すアリルの組み合わせに集団を超えた共通性が見られます)。HLAには頻度が高く、特別に多い組み合わせというものが多数存在しますが、それが遺伝の結果なのか相性などの影響なのかは判断が難しいところもあります。

 HLAの遺伝子は6番染色体短腕に固まって存在しています。同じ染色体の上で固まっているために、組み替えで分離しなければまとまった形で子孫に伝えられていきます(連鎖)。HLAの遺伝子はそれぞれがかなり近い遺伝子距離にあるため非常に連鎖しやすいのですが、遺伝子距離から考えられる以上に連鎖しやすくなっています。
 連鎖する複数の遺伝子に関連(複数の遺伝子を持つ頻度が、それぞれの遺伝子頻度の積とは異なること)がある場合、連鎖不均衡にある、といいます。HLAの遺伝子は非常に連鎖しやすいため、強い連鎖不均衡をもつ組み合わせが多数あります。
 連鎖不均衡の強さを示す指数として、LD(linkage disequilibrium value)、RD(relative linkage disequilibrium value)、があります。LDとは遺伝子頻度の観察値と期待値(それぞれの積)の差であり、RDとはLDをLDのとりうる最大値で割ったものです。
 たとえば日本人においてHLA-A*24:02は35.936%、HLA-C*12:02は11.27%存在します。単純な積だと、この二つを持つ頻度は4.050%になります。しかし実際の観察値は9.752%であるため、LD値は9.752-4.050=5.702となります。また、LD値が取り得る最大値は、11.27-4.050=7.22となるため、RD値は5.702/7.22=0.790、となります。
 このような連鎖不均衡が大きくなる要因として、突然変異が起きた年代が最近であること、HLAの相性の結果、遺伝子距離の差、最近に起こった移住や混血、などがあげられます。

 HLAの遺伝子領域には、多数のHLA遺伝子だけでなく、HLAに類似して免疫にはたらく分子や、HLAの偽遺伝子(HLA遺伝子に類似した配列を持っているが、タンパク質を発現しないもの)を多数含んでいます。これは、遺伝子が進化する仕組みとして、自分自身の遺伝子を他の場所へコピーして、もともとの機能を保ちつつ別バージョンを作る、遺伝子重複という仕組みがあるからです。
 ピーター・パーハム先生は、HLA-B*73:01だけは、かつて1600万年前にMHC-Bから重複してできたMHC-BIIに由来する、と説きます。この古い由来のHLA-Bは、なぜか西アジアに集中しておりアフリカにはほとんど見られません。そして世界的にはHLA-B*73:01を持つヒトはほぼ100%がHLA-C*15:05を持つのに、アジアにおいてのみ、他のHLA-Cを持つヒトがいます。
 ここを手がかりに、HLA-B*73:01が旧人から現生人類にもたらされたHLAであることを解き明かしていきます。
 ただHLAに関してはとりわけ、それが遺伝や交配の結果なのか、環境からの影響なのか、という問題がつきまとうように思われます。論文の主張がどの程度もっともらしいのか、判断は困難を極めます。
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