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fairyism備忘録

現状のところ、人類史および日本への拡散について管理者が学習してゆくブログです。

Mitchondrial Genome Variation in Eastern Asia and Peopling of Japan 2004 を読んでみる(5)

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Mitchondrial Genome Variation in Eastern Asia and Peopling of Japan 2004 を読んでみる(5)

 Discussion

 現世人類の出アフリカについてはすでに広く受け入れられているが、移住の時期および東アジアへのルートについてはまだ明白ではない。
 最初に出アフリカが1度であったか複数回あったかが議論される。アフリカ以外の人類はすべてマクロハプログループMかNに属し、それらの拡散時期は30000-58000年前、および43000-53000年前と推測されている。これは1回あるいは2回の出アフリカがあったということに合致するが、もし2回であったとしたら、先に出たのはMの可能性が高いことになる。
 もし、1回だけの出アフリカであったとしても、東アジアへの道は複数のルートの可能性がある。実際、近東と西中央アジアを経由する北大陸ルート(northern Continental route)とアラビアとインド半島を経由する南海岸ルート(southern coastal route)が想定されている。2つのマクロハプログループのうち、西アジアでは古いMの枝がないかわりにNの古い枝が見られ、インドと南西アジアではMの根幹につながる枝が多数見られるがそれと同じくらい古いNの枝はない、このことからNの子孫は主として北大陸ルートに足跡を残し、同様にMの子孫は南海岸ルートにのみ足跡を残したと考えうる。北大陸ルートのMおよび南海岸ルートのNはそれぞれ二次的な移住によるものと思われる。
 しかし、別の説明として、MもNも同時に南アジアに到達し、北方への移住ができなかった氷河期のうちにパプアニューギニアまで急速に拡散し、そして続く後氷期に北方へ移住し、MとN双方が北アジアへ到達したという見方がある。しかしこの説明をとれば、インド、南アジア、パプアニューギニアにNの古い枝が見つからなければならず、これはまだ見つかっていない。
 インドにおけるNの子孫はすべてRから派生した系統に属する。加えて、インドにおけるこれらの系統は、西コーカサスのハプログループであり、二次的にインドへ移住した集団と思われる。また南アジアのNはすべてRの系統であるFとBに属する。さらにパプアニューギニアのNはRの根幹から発生したものである。一方で北アジアに見られるA N9a N9b Yおよび西ユーラシアのW N1b I XについてはすべてNから直接分岐している。A N9a N9b Yの拡散については北アジアの二次的な拡大に一致する。
 以上より、現在のところmtDNAの解析結果は、北ルートは主にNの子孫によって行われ気候の悪化により最終的に東南アジアまで到達したが、そこにはすでに南ルートを通ってMの子孫が居住していた、という説を支持している。このNの南方拡散の時期は、F BおよびパプアニューギニアのNが分岐した46000+-10000年前が下限と考えられる。
 しかし、近年報告された報告によると、オーストラリアに根幹から直接分岐するNが認められ、現実は単一の移住と単一の系統で説明できるような単純な様相ではないと推測される。これは原始のN系統がオーストラリアには移住したがパプアニューギニアには到達しなかった、と考えうるが、パプアニューギニアで何らかの系統の断絶や新規の移住があった可能性ももちろんありうる。
 いずれの仮説も原始のNがオーストラリアにあることを説明するのは難しい。もしMとN双方が南海岸ルートを通ったとすれば、オーストラリアにNが到達した後で、インドと南アジア、パプアニューギニアで二次的なN系統の絶滅があったことになる。もしNが北大陸ルートを通ったとすれば、北大陸ルートからオーストラリアに到達する道ですべてのNの子孫が消滅した理由を説明しないとならないことになる。
 最近、南インドの伝統民族であるChenchusに、根源型と思われるNが報告された。これによるとこの系統は1719における変異ただ一つだけを西ユーラシアのNb1/IあるいはXと共有している。この状況の解明のためには南インド、南アジア、中央アジアのさらなる精査が必要と思われる。

 マクロハプログループMについては、すでに、インドと東南アジアのM系統が星茫状の拡散を示していることから、これらの広い拡散が比較的短期間で行われたことが示唆されている。この拡散には近年報告されたオーストラリアとパプアニューギニアからのmtDNA全配列の報告も含まれる。
 しかし、これらの系統や娘系統が後に北方へ拡大したときには、長い拡散の遅延が認められる。M7およびM8の分岐時期は35000-45000年前であるが、他のグループ、たとえばG D4 M7a M7cなどの分岐時期は15000-30000年前と推測される、N由来のA Y N9についても同様に中央あるいは北アジアにおいて同じ時期に分岐したものとみられる。
 同時期に多数の系統が生まれたのは、60000-70000年前にアフリカで起き、30000-55000年前にマクロハプログループMとNで起き、15000-30000年前に中央ないし北アジアにおいて著明に起きており、これらは気候変動と関連があると思われる。この拡大における意義については現在盛んに議論されている。
 東アジアにおける民族の遺伝学的な距離の検討、および詳細な遺伝地理学的な検討はそれぞれ違った側面から日本の複雑な移住史を明らかにしてきた。民族間の遺伝学的な距離および詳細なハプロタイプの比較は、アイヌと琉球が異なる民族であり、それぞれ本土日本とも違うことを示してきた。にも関わらず、彼らは本土日本と同様にM7a M7b2 N9bが多いというアジアの中でも際だった特徴を持っていた。
 さらに、両者とも北方の民族と最も近い関係を持っていた。まずこのことは旧石器時代の日本人は南方から移住したという説を否定している。旧石器時代の日本人は北東アジアから来た可能性が示唆される。この面において今回の報告は日本人の北方由来を強く支持する。ガンマグロブリン多型を用いた初期の研究では日本人の由来はすべてシベリアのバイカル湖付近と結論した。これは今回の報告でブリヤートと琉球に高い相関があることによって支持される。
 より最近、古典的マーカー、またmtDNAによる報告により、日本人と韓国人の高い関連性が示された。これは今回の報告でも確かめられた。この韓国と日本に共通した母系の集団は比較的近年のものであり、韓国とだけに特異的に共有しているハプロタイプは、アイヌで10%、本土日本で7%、琉球で5%であった。この特異的な共有は日本と韓国に限定してみられる派生枝である、A1a B4c1 B4f、および大部分が日本と韓国に存在するN9b B4a1 B4b1 G1a M7b2 M12によって増加している。この韓国からの影響は考古学的に明白である弥生期における大陸からの移住の結果である。
 しかしながら特異的な遺伝子型の一致は他の地域とも見られ、そのため近年における影響をより広い範囲で考えるべきといえる。本土日本は遺伝子型の特異的な共有を南中国と2.5%、北中国と1.5%、中央アジアと1.5%、インドネシアと0.3%を有している。琉球は北中国と2.4%、中央アジアと2.4%を共有している。またアイヌが近年のシベリアからの影響を受けていることはすでに強く指摘されている。
 また、それとは独立に中央アジアからの移住が本土日本に影響していると思われる。それは最初、チベット方面に由来していると考えられるYchのYAP+マーカーが日本に特異的に移住していることで観察された。mtDNAのM12はそれと対応している。このようなYchマーカーがチベットと東アジアに限定して見られることは、大陸で続けて起こった移住の波がこのマーカーが移住した足跡を消してしまった結果として説明できる。
 加えて、最終的に琉球に到達した人々の中に、南アジアからの母系系統を伝えた人々がいたと考えられる。この一派はM M7a M7a1の基本的な系統に代表され琉球の31%を占め、琉球が北方の集団と共有していないものである。この南方からのシグナルは、埴原のとなえた二重起源説における旧石器時代の南方からの移住に相当するように思われる。
 さらに、M7a M7a1 M7b2が世界的に見て琉球でもっとも多く、N9bとB5b2が日本でもっとも多いということは、この地域が旧石器時代から近年にかけて、本土日本を含め北方や南方の諸島まで移住される地域であったことを示していると思われる。いくつかの遺伝学的な指標について、日本における南北の勾配が示されている。このことは日本に北方および南方から影響があったことを示している。
 最後に、縄文人のmtDNA解析の報告がいくつかなされているが、これは旧石器時代の人口を反映して遺伝子的に多様であった。試みに縄文人と現代の集団を系統の共有を基準として比較してみると、アイヌと最も近く、ついで琉球であり、本土日本とは最も遠かった。
 まとめると、日本は旧石器時代に北方および南方アジアから母系系統を受け、後期新石器時代に韓国を経由して北アジアからの多数の移住を受け、さらに西アジア、シベリア、南方の諸島からもいくらかの特異的な系統を受けていると考えられた。
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